Dear America,  

Akira Eguchi plays Gershwin


2002年5月に発売されました。
このCDが月刊レコード芸術、2003年9月号にて、
特選版に選ばれました。


2001年9月11日、テロによって攻撃されたニューヨーク。
ワールドトレードセンターのツインタワーが瞬時に数千人の命を飲み下して倒壊した。
あの光景、におい、人々の涙は一生忘れることができない。
美しくよく晴れた朝の、いつも通りの一日のはじまりであった。ほんの数キロ先で起きている出来事はあまりに非現実的であり、頻繁に行き交う緊急車両のサイレンの音が、時折私を現実に引き戻す唯一の非日常であった。それから日が経つにつれ、次第に事実が明らかになり、あのショックは継続する苦痛となってじわじわとニューヨーカー達の希望を侵食していったのである。
偶然にもアメリカ人の作品によるレコーディングを数週間後に控え、ニューヨークに住む日本人ピアニストとして私にできることは、演奏によってニューヨーカーの痛み、自分の思いを世界中の人々に伝えることだけ、それが私の使命であるような気がした。急遽曲目を変更し、「金髪のジェニー」と「オルコット家」を録音することにした。
あの日以来、二度と家族のもとへ帰ることのなかった、数千の犠牲者とその御遺族、そして正義とともにたくましく立ち直りつつあるアメリカに、このCDを捧げたい。
2002年、春、ニューヨークにて

江口 玲


使用ピアノは1989年製、ニューヨークスタインウェイ。



 
ジョージ・ガーシュイン(1989-1937)/江口 玲(1963-)

実に多様なバージョンが存在するこの曲は、ガーシュイン自身による演奏もかなりの数が現存、あるいは復元されているが、私自身が編曲するにあたっては、グローフェによるオーケストラとピアノ版を基本とした。ピアノロールに残るガーシュイン自身によるソロ演奏は、実は重ね録りがされているため、実際の響きは四手のものに近く、その響きを尊重し、ソロピアノのパートは極力忠実に残し、かつオーケストラの持つ色彩感を効果的に加えたため、結果的にはかなり高度なテクニック、ソステヌートペダルを含めた複雑なペダルワークが必要とされることになった。


スティーヴン・フォスター(1826-1864)/ヤッシャ・ハイフェッツ(1899-1987) /江口 玲(1963-)

フォスター作詞、津川主一訳
夢に見しわがジェニーは
ブロンドの髪ふさふさと
小川の岸辺を行き
あたりには雛菊(ひなぎく)笑(え)む
楽しき歌 口ずさびつ
小鳥の歌に合わせて
ああ 夢に見しわがジェニーは
ブロンドの髪ふさふさと行く

ジェニーは晨(あした)の光
さしいずる朝日影
その歌声聞く時
昔の想出(おもいで)かえる
夜のしじまに そぼ降る雨
聞きて偲(しの)ぶや 亡き君
ああ なつかしき面影(おもかげ)を
慕えど君 また帰らず


チャールズ・アイヴズ(1874-1954)

ピアノソナタ第2番の第3楽章で、超絶論者の牧師として知られるブロンソン・オルコットとその家族(娘は著明な作家、ルイザ・メイ・オルコット)にちなんで名付けられている。アメリカ人に感傷的な郷愁を思い起こさせる旋律が、あちらこちらに現われる。しかし私がこの曲の中に聴き取るのはそればかりではない。アメリカを襲った2001年9月のテロ以降、この曲をたびたび演奏してきたが、賛美歌、ベートーヴェンの「運命」のモチーフ、鐘の音、古いスコットランドの旋律、それらが否応無しにこの惨劇を連想させるのである。怒り、悲しみ、安らぎ、平和、回想、私にとって特別な意味合いを持つ曲である。


ジョージ・ガーシュイン/パーシー・グレインジャー(1882-1961)
共演 姜 愛里

オーストラリア生まれのアメリカ人ピアニスト、パーシー・グレインジャーによってファンタジーとして編曲された。グレインジャーは非常に独創性に富んだ個性的な解釈を持ち、自身に必要とあれば、原曲の音やリズムまで変えて演奏するようなタイプの演奏家であった。しかしながら、この二台ピアノ用の編曲では数カ所のオリジナルなパッセージをのぞいては、あくまでもガーシュインの楽譜に忠実である。今回の演奏では、グレインジャーの編曲からさらにオーケストラの音に近くなるように、そして歌われる役柄にあわせて、多少の装飾を施してみた。例えば「It Ain’t Necessarily So」や、苺売りが歌う「Strawberry Call」、有名な子守唄「Summertime」等であるが、基本的にはオペラで歌手にゆるされる即興性の許容範囲であると、認識している。


1926年に作曲されたこの曲は、副題に「Slow Dance」と書かれているように、ゆったりとしたスイングが特徴的である。どことなくユーモラスな旋律が、コープランドらしさであるが、同じく「感傷的な」という形容詞がついた、ラヴェルやチャイコフスキーのワルツから比べると、その解釈、感覚の違いもまた興味深い


ウィリアム・バルコム(1938-)

初めて聴く人にも懐かしさを感じさせる親しみやすい旋律と、クラシックの和声、そしてラグタイムとの融合によって生み出された傑作である。現代音楽作曲家のバルコムにとって多数のラグタイムの作曲は、その創作活動のほんの一部にしか過ぎないが、この分野に改めて価値を付け加えた功績は、強くたたえられるべきである。


ジョン・フィリップ・スーザ(1854-1932)/ウラディミール・ホロヴィッツ(1903-1989)

スーザの代表的な行進曲、「星条旗よ永遠なれ」に、ホロヴィッツが最重量級の編曲を施した。最も演奏困難な小品の一つと評され、彼の天才的演奏技巧を誇示する目的としては、最も完成度の高い編曲であり、特に中間部の多声部処理は精緻を極めている。1944年にアメリカ国籍を取得したホロヴィッツは、第二次世界大戦の終結の祝福と、このロシア移民のピアニストを暖かく受け入れてくれたアメリカに対して敬礼の意味を込めて、その翌年にこれを編曲した。






CD裏表紙の写真を撮って下さった、稲田美織さんの作品はこちらをご覧ください。





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