2002/06/18(Tue)

No.52
いよいよ明日。
さて、いよいよ明日に迫ってしまいました。カーネギーのレコーディング。(5/24参照)
本日初めて伝説的調律師、フランツ・モアさんにお目にかかり、使用するピアノに触りました。調整をしながらモアさんは、うんうん、これがホロヴィッツの好きな調整なんだ、と一人うなずいていらっしゃいました。で、僕の弾いた第一印象は、えっ??これがホロヴィッツの好きなピアノ?という印象でした。意外というか、意表をつくというか、今まで自分が接してきたピアノの音のイメージを根底から覆すような、驚くべき楽器でした。レコーディングで聴ける、ホロヴィッツの音から想像していた楽器の音じゃないのです。ハッキリ言ってとまどいました。これは自分に弾きこなせないのではないかと思いました。フレンドリーではなく、扱いやすい楽器では全くなかったのです。
まず、低音域は弦の音がビンっと響き、まさに底鳴りのする音、これは想像通り。高音部はまたクリスタルクリアな、こんな美しく透き通るような高音部を持つ楽器は、見たことありません。意外だったのが中音域です。ちょっとつまったような、ぽこぽこした音で、どちらかというと木質な音なのです。強いていえば、昔のフォルテピアノ。これは大発見です。現在のピアノの原型はまさに、フォルテピアノ!!そうなんです、まさにホロヴィッツが愛したピアノはフォルテピアノの末裔の特徴をはっきり示していたのでした。
三十分ほどそのピアノを弾いているうちに、突然何かが変わったのです。そしてはっきり、これがホロヴィッツの音だって実感いたしました。ホロヴィッツの秘密が一瞬解ったような気がしました。本当に何かが突然変わったのです。
それからあとはもうひたすら楽しい!もういくらでも弾いていられる。次から次へと、ホロヴィッツのおはこ、コンソレーション3番だの、星条旗だの、ラフマニノフのプレリュードだの、ホロヴィッツもどきの自己満足の世界!始めは取っ付きにくかったこの楽器も、弾いているうちにどんどん虜になってしまいました。どんどん新しい発見があり、まさにピアノ自体が僕にアイデアを与えてくれるのです。まさに名器。物凄い存在感で、まるでピアノが生きているかのようです。しばらくこの興奮はさめません。この霊気ただよう115歳の楽器。まさに神憑かり的です。そして、この一筋縄ではいかないこの楽器に、見事に息を吹き込んだモアさんの冴え渡る直感。今日ほど、楽器と調律師の重要性を実感したことはありません。何という幸せでしょう。こういう楽器と、すばらしい調律師の手腕に同時に出会えたこと、これは一生の宝です。もう明日の録音なんてどうでも良くなってしまいました。(笑)
昔の名刀といわれたものも、きっとこういう霊気を持ったものだったのかもしれません。モアさんが著書の中で、こういう調整の楽器は誰にでも合うわけではない、とおっしゃっていました。まさに紙一重の際どさが感じられる楽器です。
一番始めにこの楽器を触ったときに、お前なんかにこの私がひきこなせるかね?と挑みかかってきたのが、はっきりとわかりましたから。
明日は楽しみです。



2002年06月の日記をすべて読む
記事番号 Pass


表紙へ戻る

[TOP]
shiromuku(cr1)DIARY version 1.02